千代田化工(本訴)事件(転籍拒否から不利益取扱)

千代田化工(本訴)事件(東京高裁平成5年3月31日判決)
「転籍に応じた者との処遇の公平を図ることを目的とした、転籍に応じない者に対する解雇が無効とされた。」


[事案の概要]Y会社川崎工場においては、長期にわたって経営不振が続き、Y会社の全体の経営にも重大な支障を及ぼしかねず、人員整理を含む立て直し策が強く求められていた。そして、その方策として、第1次非常時対策及び第2次非常事対策として、川崎工場の子会社化及び余剰人員(主として技能系職員)の子会社への移籍等を行ったものである。同対策を推進した結果、Yにおいては、X及び任意退職した者を除くと、移籍対象とされた技能系従業員のほぼ全員が移籍に応じ、川崎工場の子会社化、人員削減、事業内容のスリム化等の前記目的はほぼ達成された。同対策の過程において、移籍の対象となった技能系労働者は(希望退職した者は別として)、Xを除き全てが、賃金3割低下の不利な条件にもかかわらず、Y会社の要請に協力し移籍に応じたのに、X1人が移籍を拒否し、Y社員としての従前の賃金を維持したまま居続けることは、これら移籍に応じた従業員からみれば、不公平とうつるため、他の移籍に応じた者との人事の公平を図るため、「Y会社の就業規則における会社が経営規模の縮小を余儀なくされ、または会社の合併等により、他の職種への配置転換その他の方法によっても雇用を続行できないときは、従業員を解雇する」旨定めた規定(22条1項7号)に基づき、Xを解雇した。

[判決の要旨]
企業の業績不振または業務縮小に伴う人員削減が、希望退職、出向、配置転換、自然減による欠員の不補充などの任意的手段で行われるのでなく、解雇という方法で行われるときは、労働者はその責任のない事由により意に反して職を失い、生活上重大な不利益を受けることになるので、そのような事態が肯認され得るには、解雇時点において使用者側に合理的かつ客観的に首肯し得る程度の人員削減の必要性があり、解雇に至るまでに解雇を回避するための諸措置をはかる努力が十分なされたこと、経営危機の実態や人員整理の必要等について労働者側に十分な説明をし、協議が尽くされたこと等の条件が満たされなければならないと解される。〈中略〉そして、このことは、本件の場合のように、会社は、業務縮小あるいは職種転換等によっても雇用継続困難の場合解雇することができる旨就業規則及び労働協約で定められ、特にそのような要件が明示されていない場合であっても、その解釈適用にあたっては、上記のような考慮を及ぼすことが条理上要請されているというべきである。〈経営上の必要性について〉〈自然減による欠員の発生が容易に推測できること、経営環境は順調であったことを認めた上で、〉Xを直ちに解雇しなければならないほどの経営上の切迫性、緊急性があったとは認めがたい〈中略〉。〈人選の合理性について、〉本来、法律的には、本人の同意を得ない移籍は基本的にあり得ないし、Yとしても、第1次非常時対策及び第2次非常事対策の「移籍」の実施に当たり、従業員に対し、基本的に本人の同意を前提として行うものであるということを述べているし、しかもその意思決定選択の1つの判断材料として相当高額の「特別加算金」という代償を用意して移籍に応ずるかどうかの選択を各従業員に任せていたのである。〈中略〉移籍に応じない場合はどうなるのかの労働者の質問に対して、Y会社の側で、その場合は社内に仕事がないので社外で仕事を見つけてもらうほかない、などと暗に解雇を示唆した発言をしていたことも認められる。しかし、先に述べたとおり、整理解雇の場合は、その認められる要件が、何ら緩和されるものではないし、逆に右のような状況の下でXの側で移籍を拒否することが労働契約上の信義にもとり、被用者としての権利を濫用するものであるとも認めがたいのである。なぜなら、業務縮小などに伴う整理解雇が許容される要件は、前述のとおり客観的に定まるものであって、労働者として移籍か解雇かの二者択一を迫られるものではないからである。そうだとすれば、処遇の公平の貫徹というY会社の利益が大きいことは否定できないが、これをもってXの労働契約上の信義則に基づく雇用継続への期待を失わせる理由としては未だ十分ではないといわなければならない。また、Yとしては、Xのように最後まで同意しない者の出てくることは当然予見できたものであり、これによって生ずる問題点は、別途適切な対応策も不可能ではないと考えられる。例えば、移籍拒否の者が多数で、同意による移籍だけでは当初の人員削減の計画を達成できな場合は、更に広範囲の従業員を対象とした希望退職の募集や、配置転換、出向などの措置を講じ、このような解雇以外の手段を講じても、なお経常上解雇による人員減による人件費削減の策を採らざるを得ないという場合は、そのときはじめて一定の合理的な整理基準を定めての整理解雇の問題が俎上にのぼるであろう。その場合には、年齢、家族構成、勤務年数、本人の能力などを総合的に勘案して出来るかぎり解雇による犠牲が少ない者から解雇がなされるような合理的な選定基準が定められるべきであり、使用者の側で任意に解雇者の氏名の指名が許されるものではない。このようにして、本件の場合、Xを解雇することが、唯一適当な解決策であったとは到底認めがたいのである。そうすると、移籍に応じた他の従業員と比べて不公平だからというYの主張は理由がないものといわざるを得ない。以上によれば、Y会社の就業規則22条1項7号を理由とした本件解雇は、いわゆる整理解雇の要件を満たさぬもので、解雇権を濫用したものとして無効であ〈る。〉