石川島播磨重工業事件(休職)

石川島播磨重工業事件(最高裁昭和57年10月8日判決)
「労働者が逮捕、勾留されたために30日間欠勤したことから、使用者が労働者を事故休職に付し、30日間の事故休職期間が満了したがなお勾留中であったためになされた退職扱いを有効とした原審の判断を認容した。」


[事実の概要]
Xは、昭和37年3月にYに雇用された者であるが、昭和45年1月14日、Y会社において勤務中、昭和44年11月に行われたデモに参加し、公務執行妨害罪及び凶器準備集合罪に当たる行為をした嫌疑をもって逮捕され、同年7月6日に保釈されるまでの間、欠勤を余儀なくされた。本件欠勤について、Yは、同年3月3日までの40日間については、Xが保有していた有給休暇を振り替えて休暇扱いとし、3月4日から4月3日までの1ヶ月間を「事故欠勤」として扱い、翌4月4日には事故欠勤が引き続き30日以上に及ぶときは休職させることがあると定める就業規則77条1項に基づきXを休職に付した。さらに、5月4日には、事故欠勤休職の期間を30日と定め、かつ、休職期間満了時にはその従業員は退職するものとする旨定める就業規則の規定に基づき、その旨をXに通告した。Xは、本件休職処分は無効で、Xには雇用契約上の地位があると主張した。


[判決の要旨]
所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものであって、採用することができない。 [原判決の要旨]Xは、通常解雇事由がある場合に限り「事故欠勤休職」処分ができると解さなければ「事故欠勤休職」制度が解雇の制約を免れるために利用されるおそれがあると主張するが、仮に本件「事故欠勤休職」制度が条件付解雇の性格を帯びるとしても、解雇の制限に関する労基法19条の規定と牴触するものでないことは、上記見たところにより明らかであるのみならず、労基法20条との関係においてこれを見ても、すでに前記のように、その期間内に限り復職を可能とする一か月の解雇猶予期間を設定しているのであるから、同条所定の予告解雇よりも従業員にとって有利となる場合もあり得るのであって、これをもって同条に違反するものとすることができない。また就業規則75条22号にX主張の規定<懲戒事由としての「有罪の確定判決を受けたとき」>があることは当事者間に争いがないところであるが、Yの就業規則75条は、右のほか会社構内における暴行、脅迫、傷害、侮辱又は業務妨害(12号)、背任又は横領(19、20号)、会社の金品に限らず一般的な窃盗又は窃盗未遂等(21号)の犯罪行為については、有罪判決の確定をまつまでもなく、懲戒権を行使することがある旨規定していることが認められるのみならず、「事故欠勤休職」制度は、長期にわたる従業員の責に帰すべき事由による欠勤を理由とするものであって犯罪行為を理由とするものではないのであるから、右就業規則75条22号の規定があるからといって、これをもってX主張のごとく解雇すべき根拠とすることができない。なお、Xは、本件欠勤のごとく刑事事件によって逮捕勾留されたことによる欠勤は、他の自己都合による欠勤と区別して取扱うべき旨主張する<中略>。第一に本件「事故欠勤休職」制度は、例えば、身柄不拘束のまま刑事事件によって起訴され、現実に就労が可能であるにかかわらず、単に刑事事件によって起訴されたことの一事をもって休職事由とする場合と異り、就労意思の有無はともかく、一定期間にわたる労務の不提供それ自体をもって休職事由とするものであり、この点においては他の自己都合による欠勤と何ら区別すべき点がないのみならず、逮捕勾留は、司法機関によって被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があると認定された場合に限り許される(刑訴199条、207条、60条)のであるから、逮捕勾留が違法又は不当であると認むべき特段の事情が立証された場合はともかく、そうでない限り逮捕勾留による欠勤は、その者の責に帰すべき事由による欠勤に該当するものというべきであって、この点においても他の自己都合による欠勤と何ら区別すべき点がない(<本件逮捕勾留の違法・不当についてXは何ら立証せず、また、一審では有罪判決を受けており、>本件欠勤はXの責めに帰すべき事由によるものとするほかない。)。第二に、Xは保釈による再就労の可能性を云々するけれども、本件「事故欠勤休職」処分がなされた当時、Xの勾留理由とされた刑事事件の性質上権利保釈が可能であったという以外に、近い将来に保釈を許される具体的な見込みがあり、しかもYにおいて調査すれば容易にこれを知り得たと認めるに足る証拠はなく<中略>、一般に第三者において容易に明らかにすることのできない保釈出所の時期を究明しこれを顧慮しなければ「事故欠勤休職」処分をすることができないとすることは、いたずらにYに難きを強いることであって相当とはいえない。「事故欠勤休職」処分は、その実質において解雇猶予処分に当たるとみられなくはないが、前記就業規則77条1項4号の規定は通常解雇に関する就業規則78条1項とは別に、独立した雇用契約終了事由としてこれを規定したものであることが、その規定の文理に照らして明らかであるし、右のように通常解雇とは別の雇用契約終了事由を就業規則上設定することが許されないとする理はない。<中略>以上のとおりであって、本件「事故欠勤処分」の無効を前提とするXの本訴請求は、既に他の争点について判断するまでもなく理由がないから、これを失当として棄却す<る。>