わいわいランド事件(募集の際の労働条件と実際の労働条件の相違)

わいわいランド事件(大阪高裁平成13年3月6日判決)
「業務委託の不成立を理由とする解雇は有効であるが、業務委託に関する交渉経過等を説明することなく、それが成立するものとして雇用契約を勧誘し、これにより労働者らを失職させたことが、不法行為に当たるとして、将来の賃金相当分(5か月分)の損害賠償請求が認められた。」


[事案の概要]
Yは、保育所の経営等を行う有限会社であるが、平成11年4月からのA社からの保育業務委託を見込み、平成10年11月ごろからXらに保育ルームのトレーナーとしての就職を勧誘した。Xらは勧誘をおおむね承諾していたところ、労働条件の明確化を求め、Yは、平成11年3月27日、Xらに対し労働条件を記載した雇入通知票等を交付した。これに対し、X1は承諾したが、X2は考えさせて欲しいと回答した。しかし、結局、Xらが就労を開始する前に、Yは、4月6日にX1に対し、同月8日にX2に対し、A社との業務委託契約が成立しなかったことを理由に、Yへの就職の話はなかったことにしてほしい旨述べた。なお、X1はYに就職するため、平成11年3月末をもって、勤務していたB幼稚園を退職した。X2は、勤務していた実兄の経営するC工務店に退職の申出をし、また、D幼稚園からの勧誘を断っていた。


[判決の要旨]
<X1とYとの間には平成11年3月27日に期間の定のない雇用契約が成立していること、X2とYとの間には雇用契約が成立したとは認められないことを認定した上で、>本件<X1の>解雇は、予定していた A社の保育所における業務をYが委託を受けることができなくなったという客観的な事実を理由とするものである。X1もそこを職場とすることを予定して雇用契約を結んだものである。したがって、本件解雇は、やむをえないものであって、権利の濫用や信義側に違反するとはいえない。 Yは、X1に対する本件解雇をするに当たり30日以上前にその予告をしたとは認められない。したがって、その解雇通知は、即時解雇としての効力を生じないが、特段の事情がない限り、通知後労働基準法20条1項所定の30日の期間を経過したときに解雇の効力を生ずるものである(最判昭和35・3・11参照)。したがって、Yに対し労働基準法所定の付加金請求権はともかく、同法20条1項に基づく同条項所定の30日分以上の平均賃金相当の解雇予告手当の支払請求権が生ずるわけではない。この場合、X1は、本件解雇の生ずるまでの期間の賃金請求をなすことができる(民法413条、536条2項)。 以上によると、X1のYに対する解雇予告手当の支払請求は理由がなく棄却を免れない。しかし、X1はYに対し平成11年4月6日からの1か月分の賃金24万円の支払を求めることができる。 Xらは、Yの言葉を信頼し、Yと雇用契約を結んだうえ、相当期間保母等として勤務を続けることができるものと期待した。雇用契約の性質上、労務に服するXらが、Yと雇用契約を結ぼうとする場合は、勤務先があるときはこれを解約し、また転職予定があってもこれを断念しなければならない。<中略>雇用によって被用者が得る賃金は生活の糧であることが通常であることにもかんがみると、Yは、Xらの信頼に答えて、自らが示した雇用条件をもってXらの雇用を実現し雇用を続けることができるよう配慮すべき信義則上の注意義務があったというべきである。また、副次的にはXらがYを信頼したことによって発生することのある損害を抑止するために、雇用の実現、継続に関係する客観的な事情を説明する義務もあったということができる。ところが、Yは、Aとの保育業務の委託契約の折衝当初からこれが成立するものと誤って判断した。そのうえ、その折衝経過及び内容をXらに説明することなく、業務委託契約の成立があるものとしてYとの雇用契約を勧誘した。その結果、X1については契約を締結させたものの就労する機会もなく失職させ、X2については雇用契約を締結することなく失職させた<中略>。以上のYの一連の行為は、全体としてこれをみると、Xらが雇用の場を得て賃金を得ることができた法的地位を違法に侵害した不法行為にあたるものというべきである。したがって、Yは民法709条、44条1項により、これと相当因果関係にあるXらの損害を賠償する義務がある。 X1の再就職状況や通常再就職に要する期間(数か月単位であろう。)、雇用保険法における一般被保険者の求職者給付中の基本手当の受給資格としての最低被保険者期間が6か月であること(最低限度の就職期間と評価することができる。)にかんがみると、X1がYの不法行為によってYから賃金を得ることができなかった期間のうち、その5か月分(X1は前示のとおり平成11年4月分の賃金の支払を受けることができるから、これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。<損害額は>X1がYから得るべきであった月額24万円に5ヶ月をかけて得られる120万円である。<なお、X2については、平成11年6月から現実に職を失ったことを考慮し、4か月分(X2はC工務店から平成11年4月及び5月分の賃金の支払を受けており、これとあわせて6か月分となる。)を不法行為と相当因果関係に立つものと認めた。>