新日本製鐵(日鐵運輸)事件(出向・要件)

新日本製鐵(日鐵運輸)事件(福岡高裁平成12年11月28日判決)
「個別の承諾がない場合においても、出向が実質的に労働者の給付義務の内容に大きな変更を加えるものでない場合や、承諾と同視しうる特段の根拠がある場合には、出向を違法と解するのは相当でないとした。」


[事案の概要]
Xらは、昭和36年にY社に入社し、構内鉄道輸送業務に従事していたが、Yは、Yが担当している鉄道輸送業務を一括してAに委託することにした。これに伴い、Xは、平成元年4月15日にAへの出向を命ぜられ、Xらは出向命令に不同意のまま、Aへ赴任した。その後、本件出向命令の期間(3年)は、3回延長された。


[判決の要旨]
雇用契約は、通常、特定の指揮監督権者の下での労働力の提供が予定されているものと解するのが相当であるから、使用者は、当然には、労働者を他の指揮監督権者の下で労働に従事させることはできないというべきである。そして、民法625条1項、使用者の権利を第三者に譲渡する場合は、労働者の承諾を要するものとし、債権譲渡の一般規定と異なる制限をしている。これは、雇用契約の場合、使用者の権利の譲渡が、労働者からみて、単に義務の履行先の変更にとどまるものではなく、指揮監督権、人事権、労働条件決定権等の主体の変更によって、給付すべき義務の内容が変化し、労働条件等で不利益を受けるおそれがあることから、労働者を保護する趣旨にでたものと考えられる。しかして、出向(在籍出向、以下同じ)は、労務提供の相手方の変更、すなわち、使用者の権利の全部ないし一部の出向先への譲渡を意味するから、使用者がこれを命じるためには、原則として、労働者の承諾を要するものというべきである。そして、右承諾は、労働者の不利益防止を目的とするものであることからすると、事前の無限定の包括的同意のような労働力の処分を使用者に委ねてしまうような承諾は、右規定の趣旨に沿った承諾といいがたいと評すべきである。逆に、個別の承諾がない場合においても、出向が実質的に労働者の給付義務の内容に大きな変更を加えるものでない場合や、右規定の趣旨に抵触せず、承諾と同視しうる程度の実質を有する特段の根拠がある場合には、形式的に承諾がないからといって、全ての出向を違法と解するのも相当でない。<中略>これを本件についてみるに、<中略>右就業規則や労働協約は、個別の同意に代わりうる出向命令権の根拠足りうるものと解するのが相当である。出向は、出向先での勤務内容、勤務場所、労働条件等により、労働者の生活に影響を及ぼすのが通常であって、使用者が出向を命じる権限も無制約ではなく、出向についての業務上の必要性の有無や、労働者の受ける利益の程度によっては、出向命令権の行使が権利の濫用として許されないこともあり得る。そして、本件出向は、業務委託に伴う出向であって、前述のように、当初から出向期間が長期化し、復帰の可能性が見込まれないことが十分予想されていた(現に、3回に亘り、延長措置がとられている。)といえるから、出向後の労働条件の変更の程度、内容によっては、労働者の生活に重大な影響を与える危険性が高く、出向命令権の行使が権利の濫用に当たるか否かの判断もより慎重に行われるべきものであると解される。<中略><Xらの受ける不利益について、>出向の前後を通じて、Xらの勤務場所、勤務内容、勤務形態に特段の変化はなく、また、勤務時間(所定内労働時間)についても、Yの労働時間の短縮が進み、年間の休日日数が当初(Xらが最初に本件出向を告げられた時点)の91日から、平成元年4月に93日、平成3年4月に96日、平成4年に99日、平成5年に102日と漸次増加したため、同年時点では年間で11日間の差が生じているが、右は事後の事情変更に起因するものである上に、これに対しては、時間差に応じて出向手当B(月額)を支給されている。lt;中略>Xらは、Yに勤務したと仮定した場合に支給される過勤務手当と出向手当Bとの差額を主張するが、Xらの計算によっても、右差額は1ヶ月で327円から6375円の範囲にあるから、本件出向命令の効力を左右するほどの不利益とはいえない。<中略>本件出向は、業務上の必要性があり、人選の合理性も確保され、出向の前後により勤務場所、勤務内容、勤務形態に全く変化がなく、その他の点でもXらに看過できない程度の不利益が生じているということはできないから、当初から長期化し、復帰の困難性が予想されていたとしても、YがXらに本件出向を命じることが権利の濫用に当たるということはできない。