北海道コカ・コーラボトリング事件(配置転換は無効)

北海道コカ・コーラボトリング事件(札幌地裁平成9年7月23日決定)
「2人の娘及び両親の健康状態等から、転居も単身赴任も困難であった。」


[事案の概要]
Xは、昭和49年から飲料製造業を営むYに雇用され、これまでYの帯広工場で勤務していた。Yは、平成9年1月22日、Xに対して、札幌市所在の本社工場への転勤を内示し、同年3月7日、同月17日までに本社工場に転勤するよう通告した。Xは、当初本件転勤命令に従わないでいたが、平成9年4月28日ころ、これ以上本件転勤命令を拒否しつづけると、懲戒解雇等のより重大な不利益を被るおそれがあると判断し、本社工場に赴任し、現在は札幌で生活している。


[判決の要旨]
使用者は、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転居を伴う転勤は労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えることからすれば、使用者の転勤命令は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されない。しかし、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。これを本件についてみると、本件転勤命令は、Y旭川工場の本社工場への統廃合に伴い、人員配置を行う必要が生じたことから出されたものであり、業務上の必要性があると認められる。また、人選についても、前記認定のような基準に基づいてされたことからすれば、人選の基準において特に不合理な点があるとは認められない。しかし、Yは、前記のとおり、帯広工場の従業員17名につき、作業経験、能力、年齢、協調性等を考慮してXら4名を選考して異動させることとしたが、右17名のうち5名については他の要件は満たすものの協調性に欠けるとして異動候補者から外しているところ、右のように約30パーセントもの者が協調性に欠け異動不適格者であるというのは不自然であるから、右要件は異動対象者を選考するについての付随的要件であると推認される。前記認定のとおり、Xは、妻、長女、長男、二女と同居しているところ、長女については、躁うつ病(疑い)により同一病院で経過観察することが望ましい状態にあり、二女については脳炎の後遺症によって精神運動発達遅延の状況にあり、定期的にフォローすることが必要な状態であるうえ、隣接地に居住する両親の体調がいずれも不良であって稼業の農業を十分に営むことができないため、Xが実質上面倒をみている状態にあることからすると、Xが一家で札幌市に転居することは困難であり、また、Xが単身赴任することは、Xの妻が、長女や二女のみならずXの両親の面倒までを一人で見なければならなくなることを意味し、Xの妻に過重な負担を課すことになり、単身赴任のため、種々の方策がとられているとはいえ、これまた困難であると認められる。そして、Xが右のような家庭状況から、札幌への異動が困難であることに加えて、帯広工場には、協調性という付随的要件に欠けるが、その他の要件を満たす者が他に5名もいることを考慮すると、これらの者の中から転勤候補者を選考し、Xの転勤を避けることも十分可能であったと認められるから、Yは、異動対象者の人選を誤ったといわざるをえず、Xを札幌へ異動させることは、Xに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるというべきである。