三和機材事件(転籍拒否から不利益取扱)

三和機材事件(東京地裁平成7年12月25日判決)
「具体的合意なしに行われた転籍命令が無効とされ、転籍命令の拒否を理由とする懲戒解雇も無効とされた。」


[事実の概要]
倒産し、裁判所で認可された和議条件を履行中の土木用機械等のメーカーであるYが、その営業部門を分離・独立させて別会社Aを設立し、当該部門の従業員全員を転籍出向させることとしたが、そのうちXのみが転籍出向命令を拒絶したことから、就業規則上の懲戒事由である「業務上の指揮命令に違反するとき」に該当するとして解雇した。


[判決の要旨]
<Yが就業規則に転籍に関する規定を追加したことについて、>本件就業規則変更の必要性についてみると、右に認定したとおり、変更前の就業規則は、業務命令として出向を命ずることができると定めていたが、その出向とは関連会社に期間を定めて勤務させるものをいうに過ぎなかったから、従来の使用者との間の労働契約関係を終了させ、新たに出向先との間の労働契約関係を設定する転籍出向をも対象とする趣旨と解することはできず、本件就業規則変更により転籍出向を明文化したことによって、はじめてYは転籍出向について業務命令を発することができる根拠が与えられたというべきである。<中略>ところで、本件就業規則変更は、右のとおり、Yとの労働契約関係を終了させ、新たに出向先との労働契約関係を設定する転籍出向を内容とするものであるから、従業員の権利及び労働条件等に重大な影響を及ぼすものであることは明らかである。したがって、Yが変更された就業規則に基づく業務命令として従業員に対して転籍出向を命じうるためには、特段の事情がない限り、こうした不利益を受ける可能性のある従業員の転籍出向することについての個々の同意が必要であると解するのが相当である。このような見地に立って、本件就業規則変更をみると、従業員が現実に不利益をうけるかどうかは、転籍出向命令を受けた当該従業員の意思にかかっているのであるから、これが一般的に従業員に対して与える影響の程度は小さいものということができる。以上によれば、本件就業規則変更は、これに基づいて業務上の必要に発せられる転籍出向命令が、特段の事情のない限り、その対象者の同意を要するものであって、従業員にことさら不利益となるとはいえないから、その効力を否定することはできないというべきである。本件転籍命令は、XとYとの間の労働契約関係を終了させ、新たにAとの間に労働契約関係を設定するものであるから、いかにYの再建のために業務上必要であるからといって、特段の事情のない限り、Xの意思に反してその効力が生ずる理由はなく、Xの同意があってはじめて本件転籍命令の効力が生ずるものというべきである。本件についてみると、Yは、和議条件を履行中に会社再建のために営業部門の分社化としてAを設立し、営業部員全員を転籍出向させることを必要としたのであって、その選択は一つの経営判断として首肯することができるけれども、右経営上の必要から直ちに、右転籍出向命令を拒否した営業部員を業務命令違反として解雇することができるわけのものではなく、右解雇が許容されるためには、<中略>本件解雇が整理解雇の法理に照らしてやむを得ないものであると認められることを要するというべきである。<中略>以上の事情を総合考慮すると、Yの側において、会社再建のために新会社を設立し、そこへ営業部員を転籍出向させる必要が認められ、また、平成3年5月9日の従業員に対する発表以来、Yが個別に転籍出向対象者の説得に当たり、X以外全員の同意を得、最終的にはX一人が会社の方針に反対している段階に至っているからといって、Xの本件転籍出向命令拒否が信義則違反・権利濫用に当たるとする事情があるとはいえず、本件解雇が整理解雇の法理に照してやむを得ないものであると認めることもできないといわざるをえない。