日本入試センター事件(配置転換は有効)

日本入試センター事件(東京高裁平成12年1月26日判決)
「単身赴任となるものの、家族、両親ともに健康に問題はなく、会社は住宅手当及び課長手当を支給することとし、また、社宅も用意していた。」


[事案の概要]
Xは、入試模擬試験の実施等を行う会社Yに昭和60年に入社し、東京の広報企画部広報課において、宣伝、広報、校内機関紙作成等の業務に従事していたところ、平成5年7月に、浜松校事務局課長への異動を命じられ(以下、本件配転命令)、これに従わなかったことから、解雇されたものである。


[判決の要旨]
1 配転の必要性について〈浜松校の管理職増員の必要性について、〉Yにおいては、浜松校に管理職を増員する経営上の必要があったと認めることができる。〈中略〉浜松校の生徒数が平成4年度、平成5年度に大きく減少し、競争相手の予備校の進出に対抗する必要が生じていたのであるから、Yが、浜松校の事務局長の具申に基づき、浜松校において高校訪問による営業活動、広報活動の態勢を強化し、現地採用者の指導育成の観点から、浜松校に管理職を1名増員する必要があると判断したことにつき、経営上著しい不合理性があるということはできない。〈人選の合理性について、Xが広報活動企画、立案、実施等の経験を積んでいることを認定した上で、〉Yがこのような業務を遂行することによって得た経験は、地方校が独自の広報業務を行う場合にも有益であり、Xは、規模は小さくなるとはいえ、新たな職務に企画力、実行力を活かして積極的に取り組んでいくことが可能であったと認められるから、Xが地方校ではそれまでの業務上の経験を活かすことができないということには、十分な根拠がないといわざるを得ない。また、Xに高校訪問の経験、生徒指導の経験、部下を指導してきた経験がなかったことも、それが、新たにそのような経験をすることの障害となるようなものではなくは、Xは、むしろ、新たな経験を積むことによって一層能力の幅を広げることができたはずである。さらに、ダイレクトメールを推進するメインの高校名簿オンラインシステムを開発してきたXのノウハウを短期間で引き継ぐことに困難が伴ったとしても、Yが、その不利益を考慮してもなお、経営上の必要から、Xを浜松校に配転させることを選択することは、経営、人事に関するYの裁量の範囲内ということができる。Yが、前記のように判断してXを浜松校事務局課長に配転することを決定したことには合理性があり、Xの主張は理由がない。2 本件配転命令及び本件解雇の権利濫用についてYは、浜松に社宅を用意し、その賃料全額を賄う住宅手当の支払を申し出ていた上、課長手当月額3万円を支給することとしてXの経済的負担に対する配慮をしていたこと、本件配転命令当時、3人の子供もXの両親も、特に健康に問題は見られなかったこと、Xの父は年金を受給していたことが認められる。そうすると、仮にXが単身赴任し、又は、妻子とともに浜松の住宅に転居しても、東京と浜松は新幹線を利用すれば概ね3時間以内で往来できる距離であるから、子供の養育や両親の介護の必要性に応じて協力をすることが著しく困難であるとはいえないし、ローンの負担が残っていたとはいえ、住宅手当及び課長手当の支給に加え、両親の協力も仰ぐならば、一家が経済的に困窮するとは到底考えられない。これらの認定と昭和60年5月から平成5年5月までの間に代々木ゼミナールグループ内で転居を伴って配転、出向を命じられた者は、家族同伴、単身赴任も含め約90名に及んでいるとの事実を総合すると、本件配転命令がXに与える経済的、社会的、精神的不利益は、転勤に伴い社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものと認めることはできない。〈本件配転命令は、Xの労働組合活動を不可能にするものであり、深刻な不利益を被るとの主張に対して、〉労働組合の結成準備において、代々木校に数多くの協力者がいたことは明らかであるし、Xが浜松校に転勤した後であっても、新幹線を用いて上京し、電話やファクシミリを活用して右の協力者らと連絡を取り合うなどすることにより、代々木校の労働組合の活動に協力することは、さほど困難ではなかったはずである。そうすると、Xが転勤することにより、組合の活動が著しく困難を来すとまで断定することはできず、したがって、本件配転命令は、Xに対し、転勤に伴い通常甘受すべき程度を著しく越える社会的不利益を与えるものと認めるには足りない。よって、本件配転命令は、権利の濫用に当たらないと解するのが相当であり、そうであれば、本件解雇が解雇権の濫用により無効であるということもできない。