渡島信用金庫事件(降格)

渡島信用金庫事件(函館地裁平成14年9月26日判決)
「降格、降職行為等が人事権の行使としての裁量権を逸脱しているかどうかを判断するに当たっては、使用者における業務上、組織上の必要性の有無及び程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、使用者における降格、降職等の運用状況等の事情を総合考慮すべきであるとした。」


[事案の概要]
Y金庫の人事方針については、AがY金庫の理事長に就任する以前は基本的に年功序列に従って処理されていたと評することができるが、Aが理事長に就任した平成8年5月以降、Y金庫は職員の勤務状況や非違行為を重視し、職員に非違行為等があったときは職員から始末書等を徴求して、これらを踏まえ職員の降格、降職等を積極的に行う人事方針に改めた。このような中で、支店長であったXについて、職務上不適当な行為がみられたことから、Y金庫から始末書等を徴求された上、平成9年1月に管理職H級から2階級下のF級に降格させられ、さらにその後も勤務状況が芳しくなかったため、同年6月にF級からE級に降格された。その後のXの勤務状況をみると、B支店次長時代は顧客に対する態度や口のきき方の悪さ、職務に対する情熱のなさ等がみられ、始末書を提出したが、改善しなかった。その後、C支店次長にとなった平成11年7月以降においても、職務に対する熱意が不十分で自らも実績を上げられなかったのみならず、部下に対する指導も不十分で、内部事務管理等の不備を招いたことから、始末書を提出したが、その後も相変わらず改善が見られず、顧客から苦情が寄せられるような有様であった。その後、客観的には些細なことから、XとAの間で口論となり、平成12年7月付けで、管理職E級から事務職C級への降格、支店次長から一般事務職への降職行為等がなされた。


[判決の要旨]
本件降格、降職行為等が人事権の行使としての裁量権を逸脱しているかどうかを判断するに当たっては、使用者としてのY金庫における業務上、組織上の必要性の有無及び程度、労働者としてのXの受ける不利益の性質及びその程度、Y金庫における降格、降職等の運用状況等の事情を総合考慮すべきである。〈事案の概要記載の事実を認定した上で、〉〈平成12年7月付け降格行為について〉本件降格行為は、これがXに及ぼす不利益が著しいものでない限り、人事権の行使としてなお裁量の範囲内にあると解するのが相当であるところ、〈中略〉本件降格が直ちにXの減給につながるものではなく、Xの生活に格別不利益を与えることはない一方で、本件降格行為は、Y金庫の地域に根ざした金融機関として性質上、その組織を維持し、これを円滑に機能させるためにやむを得ない面があったものというべきである。もっとも、Xは管理職でなくなれば管理職手当が得られなくなるところ、これは業務の種類・態様が異なることによる当然の事態であり、Xは管理職でなくなればその責任も軽減され、職務自体の質も軽減されるのであるから、この点の不利益をことさら重視することはできない。以上の諸事情を併せ考慮すれば、Y金庫による本件降格行為は、これがなされた経緯に照らすと、その相当性に疑問の余地なしとまではいえないものの、なお人事権の行使としてその裁量を逸脱したものとまでは評することができず、権利濫用と断ずることはできないというほかはない。〈平成12年7月付け降職行為について〉次に本件降職行為についてみるに、資格規程によれば、資格がC級の場合の職位については、一般職員に処遇することも原則の場合に含まれることから、特段の事情が認められない限り、Xを一般職員に補したからといってこれを直ちに権利濫用であると評することはできず、また本件において特段の事情を認めるに足りる証拠はない。〈平成9年1月付け、同年6月付け及び平成12年7月付け減給行為について〉懲戒権行使によるものは別論として、資格規程6条〈「懲戒処分に該当し、もしくは、職務遂行能力よりして、当該資格基準を満たさないと認められた場合は、降格を行うことがある」〉に基づいて人事権行使により降格がなされる場合に減給措置がなされることを当然に想定しているものかどうかが判然としない面があり(実際、本件全証拠によっても、A及びDが代表理事に就任した平成8年5月以前にかかる処遇がなされた事例は見当たらない、)、少なくとも人事権行使による降格に伴う減給については明確な定めを欠くものといわざるを得ない。したがって、重要な労働条件の不利益変更である賃金の引き下げについて明確な規定が欠缺する以上、Y金庫では人事権行使による降格に伴って減給することはないと解する余地もあるが、給与規程22条〈「基本給及び加給は、等級と号数ごとに別表IおよびIIにより決定する。」〉及び23条〈「職員に支給される」〉の趣旨に照らせば、資格規程における資格と給与規程における等級との剥離を生じさせておくべきではないと解されるから、本件では、Xが主張するように、同規程31条を降格の場合にも類推適用して、いわば漸減的に減給されると解するのが相当である。よって、これに従い、同条の規定を降格、減給する場合に置き換えて、人事権行使により降格した場合の本給は、「降格直前に受けていた号数に対応する基本給及び加給月額と同額の基本給及び加給月額が昇格した等級にある場合にはその額に対応する号数」、「降格直前に受けていた号数に対応する基本給及び加給月額と同額の基本給及び加給が降格した等級にない場合には、降格直前に受けていた基本給及び加給月額の直近下位の額に対応する号数」によって算定する方法を適用するのが相当である。そうすると、同方法によらない平成9年1月6日付け、同年6月30日付け及び本件減給行為(本給部分)はいずれも無効であ〈る。〉