慶大医学部附属厚生女子学院事件(採用の自由)

慶大医学部附属厚生女子学院事件(最高裁昭和51年12月24日第三小法廷判決)
「憲法14条、19条、21条のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、私人相互間の関係について適用ないし類推適用されるものではないとして、思想、信条等を間接の理由とする不採用決定を有効とした原審の判断を認容した。」


[事案の概要]
Xらは、学校法人Yにより設置されたY病院付属看護婦養成学校(学院)に入学し、これを昭和43年3月13日に卒業した者であるが、Yは、同年2月10日、Xらに対し、XらをY病院看護婦に採用しない旨を通知した。なお、昭和42年の卒業生までは、Y病院に就職を希望した者は全員Y病院に採用されていた。


[判決の要旨]
憲法14条、19条、21条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定が私人相互間の関係について適用ないし類推適用されるものでないことは、当裁判所大法廷判例<略>の示すところであるから、右適用ないし類推適用のあることを前提とする所論意見の主張は失当である。また、その余の所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。 [原判決の要旨]本件学院は、Y病院に限らず、いずれの病院、医療施設等においても、看護婦として執務するのに適するような一般看護婦を養成するという目的、法的性格をもつ学校であり、かつ、この目的に添う実態をもつものである。したがって、入学の際にYと入学を許可されたものとの間に結ばれる契約は、本件学院において右の目的のために教育を受けることについての権利義務の総合的表現としての本件学院の学生としての地位、身分を取得する契約以外にありえない。そうして、この地位、身分は、Y病院就職を希望する限り、書類銓衡すらも経ないで、Yの求めにより身元保証書等を提出することにより当然採用されたこととなるような、若しくは、Yにおいて当然採用すべき義務を負うこととなるような特権的地位(Xらの表現によれば、卒業前身元保証書等を提出する時期までに、合理的理由をもって、いずれかの当事者がY病院就労を拒否しない限り、当然、Yとの間で始期付、解約権留保付労働契約ないしは一種の無名契約が成立することとなるような法的地位、若しくは、Yにおいてこのような契約を結ぶべき義務を負うこととなるような法的地位)を内包するものではない。したがって<中略>、XらがYに対し現にY病院看護婦としての労働契約上の権利を有するということはできず、またXらがYに対し、かような労働契約を結ぶことを要求しうる権利を有するということもできない。 私人間の行為であっても、裁判所が当該行為をもって、憲法の精神に基づく公の秩序に反するものとして無効とし、若しくは憲法の精神にそむくと認められる行動をとる者に対し憲法の精神にそうような行為をなすべきことを命ずるなど、憲法の精神にそう取扱い、判断をしなければならない場合があり得ることは、これを認めねばならない。しかしながら、右述のような理由により労使関係が具体的に発生する前の段階においては、人員の採否を決しようとする企業等の側に、極めて広い裁量判断の自由が認めらるべきものであるから、企業等が人員の採否を決するについては、それが企業等の経営上必要とされる限り、原則として、広くあらゆる要素を裁量判断の基礎とすることが許され、かつ、これらの諸要素のうちいずれを重視するかについても、原則として各企業等の自由に任されているものと解さざるをえず、しかも、この自由のうちには、採否決定の理由を明示、公開しないことの自由をも含むものと認めねばならない。たとえば、企業等が或る学校の卒業生の採否を決するにあたっては、その者の学業成績、健康状態等はもとより、その者の一定の思想信条に基づく政治的その他の諸活動歴、政治的活動を目的とする団体への所属の有無及び右団体員であることに基づく活動、これらの活動歴に基づく将来の活動の予備、並びにこれらの点の総合的評価としての人物、人柄が当該企業の業務内容、経営方針、伝統的社風等に照らして当該企業の運営上適当であるかどうかということ等、ひろく企業の運営上必要と考えられるあらゆる事項を採否決定の判断の基礎とすることが許されるのであって、しかも、学業成績等と前記の意味での人物、人柄についての評価といずれを重視すべきかということも、原則として、企業等の各自の自由な判断に任されているものと認めざるをえない。従って、労使関係が具体的に発生する前の段階において、企業等が或る人物を採用しないと決定したことが前記憲法の諸規定の精神に反するものとして、裁判所が公権的判断においてそれに応ずる判断を示すためには、思想、信条等が企業等において人員の採否を決するについて裁量判断の基礎とすることが許される前記のような広汎な諸要素のうちの一つの、若しくは間接の(思想、信条等が外形に現われた諸活動の原因となっているという意味において)原因となっているということだけでは足りず、それが採用を拒否したことの直接、決定的な理由となっている場合であって、当該行為の態様、程度等が社会的に許容される限度を超えるものと認められる場合でなければならないものと解するのが相当である。