日東タイヤ事件(出向・要件)

日東タイヤ事件(最高裁昭和48年10月19日第二小法廷判決)
「労働者の合意のない限り、使用者は労働者に対して、出向を当然に命令することはできないとした。」


[事実の概要]
Y会社は、従業員であるXに対しY会社の系列代理店であるA会社に出向を命じたところ、Xがこれを拒否したので、業務命令違反を理由にこれを懲戒解雇した。Y会社においては、出向に関しては休職規定において、出向その他特命による業務処理のために必要があるときの特命休職の規定があるものの、就業規則においては従業員の出向義務自体についての明文の規定はなかった。


[判決の要旨]
原審の認定判断は、相当として是認することができ、このことは、就業規則の性質を所論のように法規範と解するかどうかによって左右されるものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。[原判決の要旨]Y会社の定める就業規則には従業員の休職については別に定める休職規程によるとだけ定め(62条)、その休職規程によれば、休職に該当する場合の一として他社出向その他特命による業務処理のために必要があるときに特命休職を命ずることを定め、休職期間、休職期間中の給与、復職についてそれぞれ2ないし5条で簡単に定めていることが認められるが、従業員の出向義務自体についての明文の規定はなく、労働者の同意なしに一方的に出向をYが命じうる根拠を示す証拠はないといわなければならない。いわゆる移籍出向と称せられるものを除いて出向は、なんらかの関連性ある、多くは資本と業務の面で緊密な関係をもつ会社間における人事移動であって、出向元会社の従業員である身分を保有しながら、すなわち休職という形のまま、出向先会社で勤務する雇傭状態であって、指揮命令権の帰属者を変更することである。これは本来重要な、しかも多くの場合不利益な労働条件の変更であり、労働協約の内容として定められていない場合は、労働者個人との合意のもとに行われるべきものである。つまり、一定の労働条件の枠中においてのみ労務を提供するにとどまる労働契約の中では、出向について特別の約定を定めていない限り(すなわち、労働者の同意のない限り)、使用者は労働者に対して出向を当然に命令することはできないものというべきである(なお、民法625条、労働基準法1条、2条1項、15条1項参照)。仮に就業規則に契約の効力の変更を認める見解によるとしても、就業規則に明白に出向義務を規定する必要があるといわなければならない。従って、本件出向を命じた業務命令は労働契約を超えた事実上の命令であって、出向者の承諾のない限り効力をもたないものというべきであり、右命令を拒んだことに由来する本件懲戒解雇は、その余の判断をまつまでもなく、違法であって、無効といわなければならない。