電電公社近畿電通局事件(採用内定)

電電公社近畿電通局事件(最高裁昭和55年5月30日第二小法廷判決)
「採用内定により労働契約の効力の始期を採用通知に示された採用の日とする解約権留保付労働契約が成立したものとされた。採用を内定したのち、条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したとして、留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができ、解約権の行使は有効とされた。」


[事案の概要]
1 Xは、会社Yの社員公募に応じ、昭和44年9月7日に1次試験(適性検査、一般教養筆記試験、作文)を受けてこれに合格し、同月26日に2次試験(面接、健康診断)を受け、その際同時に、高等学校卒業証明書、同成績証明書、戸籍抄本及び健康診断書を提出し、同年10月上旬に身元調査があり、同年11月10日ころに会社Yから同月8日付けの本件採用通知を受領した。2 Xは、昭和44年10月31日午後9時ころに反戦青年委員会の一員として集会に参加し、場所を移動すべく、シュプレヒコールをしながら車道上をデモした際、その先頭に立って笛を吹き、待機中の警察機動隊によって無届けデモとして規制を受け、逮捕され、執行猶予処分を受けた。3 Yは、上記2の事実を知らずに本件採用通知をした。しかし、Yの職場の一部においては、当時反戦青年委員会に所属ないし同調するYの職員によって、様々な闘争行為がなされ、職場の秩序が混乱し、業務の遂行も阻害されていた。そして、昭和45年3月6日ころYはXが前記のとおり逮捕・起訴猶予処分を受けた事実を探知するに至ったため、YはXに対し、本件採用通知による採用を同月20日付けで取り消す旨の本件採用取消通知をなし、それが翌21日Xに到達した。


[判決の要旨]
YからXに交付された本件採用通知には、採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示しており、右採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかつたと解することができるから、XがYからの社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対するYからの右採用通知は、右申込みに対する承諾であつて、これにより、XとYとの間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和45年4月1日とする労働契約が成立したと解するのが相当である。もつとも、前記の事実関係によれば、YはXに対し辞令書を交付することを予定していたが、辞令書の交付はその段階で採用を決定する手続ではなく、見習社員としての身分を付与したことを明確にするにとどまるものと解すべきである。 そして、右労働契約においては、Xが再度の健康診断で異常があつた場合又は誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取り消しうるものとしているが、Yによる解約権の留保は右の場合に限られるものではなく、Yにおいて採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合をも含むと解するのが相当であり、本件採用取消の通知は、右解約権に基づく解約申入れとみるべきである。ところで、前記の事実関係からすれば、Yにおいて本件採用の取消をしたのは、Xが反戦青年委員会に所属し、その指導的地位にある者の行動として、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したためであつて、Yにおいて右のような違法行為を積極的に敢行したXを見習社員として雇用することは相当でなく、YがXを見習社員としての適格性を欠くと判断し、本件採用の取消をしたことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができるから、解約権の行使は有効と解すべきである。