大阪労働衛生センター第一病院事件(変更解約告知)

大阪労働衛生センター第一病院事件(大阪高裁平成11年9月1日判決)
[事案の概要]
被告Yは「第一病院」を経営する財団法人であり、原告Xは同病院の心療内科で、週三日隔日で、カウンセリング等の業務に従事する医局員であるが、XはYから週四日出勤の常勤従業員となるか、パートタイム従業員への労働条件の切下げに応じるか、どちらを選択するよう求められた。Xは、これに応じず、これまでどおりの勤務形態で勤務を継続したため、Yは、昇給を実施せず、賞与を減額し、その後、Xを解雇した。


[判決の要旨]
講学上いわゆる変更解約告知といわれるものは、その実質は、新たな労働条件による再雇用の申出をともなった雇用契約解約の意思表示であり、労働条件変更のために行われる解雇であるが、労働条件変更については、就業規則の変更によってされるべきものであり、そのような方式が定着しているといってよい。これとは別に、変更解約告知なるものを認めるとすれば使用者は新たな労働条件変更の手段を得ることになるが、一方、労働者は新しい労働条件に応じない限り、解雇を余儀なくされ、厳しい選択を迫られることになるのであって、しかも、再雇用の申出が伴うということで解雇の要件が緩やかに判断されることになれば、解雇という手段に相当性を必要とするとしても、労働者は非常に不利な立場に置かれることになる。してみれば、ドイツ法と異なって明文のない我が国においては、労働条件の変更ないし解雇に変更解約告知という独立の類型を設けることは相当でないというべきである。そして、本件解雇の意思表示が使用者の経済的必要性を主とするものである以上、その実質は整理解雇にほかならないのであるから、整理解雇と同様の厳格な要件が必要であると解される。そこで、以下、検討するに、Yは、本件解雇当時、Yの経営は極めて苦しい状況にあり、人件費の負担の大きいことが経営悪化の重要な要因であり、その中で優遇を受けているXの扱いを変更する必要が生じた旨主張し、並びに弁論の全趣旨によれば、Yにおける病院経営は、平成元年、平成2年とその営業損益にいわゆる赤字を計上し、平成3年以降もその赤字は増大し、平成4年3月には2億5000万円の赤字を計上するなど、極めて苦しい状況にあったこと、その経営悪化の直接の原因は入院患者が激減したことにあったが、それとともに、患者数に比して従業員の数が多く、人件費の負担が大きいことも経営悪化の重要な要因であったことを認めることができ、これらの事実はYの右主張に沿うものである。しかしながら、平成3年9月に、Aが院長に就任し(右就任は当事者間に争いがない。)、種々の改善策を実施して病院の建て直しに腐心したこと、そして、右改善策により、平成4年3月期を底にYの再建策は軌道に乗り、その経営収支は相当程度改善されていたことを認めることができる。そして、X本人尋問の結果によれば、本件解雇当時のXの基本給は月額18万円台であって、その職種に照らせば、勤務日数が限定されていることを考慮しても、さほど高額とはいえない。そして、YはXに毎日勤務、もしくは週4日の勤務とするように申し入れているところ、申入れの勤務条件では給与も従前の週3日勤務の場合に比して増えることになろうから、この申入れの条件では、Yの人件費負担を軽減することにはならないと考えられる。Yはこのような勤務条件の変更が人件費負担を軽減するとの立証をしていない。そうすると、Yには、経営収支改善のためにXの雇用条件を申入れのように変更しなければならない状況にあったとはいえない。雇用条件は給与、提供すべき労働、労働時間など、労働者ごとの個別性が強いものであるから、週3日間の勤務の従業員がXだけであったとしても、それだけの理由でYの業務が阻害されているということはできない。 以上によれば、Xを解雇しなければならないような経営上の必要性は何ら認められないから、それにもかかわらず、労働条件の変更に応じないことのみを理由にXを解雇することは、合理的な理由を欠くものであり、社会通念上相当なものとしてこれを是認することはできない。したがって、Yによる本件解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効である。(上告不受理 最高裁第二小法廷平成14年11月8日決定)