小坂ふくし会事件(職務変更に伴う賃金引き下げ)

小坂ふくし会事件(秋田地裁大館支部平成12年7月18日判決)
「労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であり、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないとした上で、降格についても、これに減給が伴うものであるから、一方的な降格処分は無効とした。」


[事案の概要]
社会福祉法人であるY会に看護婦として勤務していたX1、X2、X3の3名は、平成10年1月1日付けでY会から辞令を受けた。当該辞令によりX1は主任看護婦から看護婦となり、賃金も3級11号(月額255,600円)から2級9号(同213,400円)になった。同様にX2は主任看護婦から看護婦となり、賃金も3級12号(同264,900円)から2級8号(同208,500円)となった。X3は当該辞令で賃金が2級10号(同215,100円)から1級14号(同187,600円)となった。X1らは辞令の内容について同意したことはなかった。この処遇についてY会は、採用時及びその後のXらの処遇が誤っていたものであり、当該辞令によりこの誤りを是正したものにすぎず、減給、降格処分には当たらないと主張した。一方X1らは、もともとY会において、昇給・昇格時に辞令が交付され、このときに労使間で賃金額の合意がなされていたのであり、当該辞令は降格処分であると主張し、不当な降格により賃金額の減少が生じたとして、その支払等を求めて出訴した。


[判決の要旨]
<昇給、昇格については>施設長が理事長に辞令の交付の決裁を受け、昇給・昇格の辞令の交付を行っていることが認められる。そうすると、労働契約のうち、賃金額の合意については、それぞれ辞令が交付された際に締結されたということができる。<Y会はXらの採用時及びその後の処遇において号給の誤りがあったと主張するが、認定された事実によると、>Y会がXらを採用する際に、看護婦不足、公務員との比較、看護婦代替配備が至急必要であったことなどの諸事情により、看護婦採用には給与面で優遇することが不可欠であったという事情が窺われる。そして、Y会の給与規程によれば、初任給は<中略>経験年数、学歴、技術等を考慮して理事長が別に定めることができる旨の裁量条項が定められている<中略>。以上によれば、Xらの初任給<中略>を定める際に、Y会理事長が給与規程に定められた裁量により、通常より高額に定めたということができ、また、前記事実認定からするとその措置は裁量権の範囲内の合理的事情に基づくものであると言える。したがって、これをもって、給与規程に反した誤った措置であるということはできない。そして、給与規程<中略>では、勤務成績が良好な場合には例外的措置をすることができる旨の記載があるし、昇格の場合についても同規程<中略>によれば、「昇格の日の前日に受けていた給料月額に最も近い上位の額の号給とすることを原則とする」旨を定めており、例外的な扱いを排除していない。以上によれば、Xらの昇給が短期間であること、昇格による号給が高くなっていることが誤りであると断定することはできないというべきである。以上検討してきたところによると、Xらの昇給・昇格が給与規程に基づかないもので誤ったものであるとのY会の主張は理由がない。前記のように、Y会とXらは各辞令の交付によって、賃金についての労働契約が合意されていた。労働契約において賃金は最も重要な労働条件としての契約要素であるから、これを従業員の同意を得ることなく一方的に不利益に変更することはできないというべきである。本件処分は、Xらの同意を得ないで敢行されたことは争いがなく、たとえ、Y会が主張するように、Y会における人件費が大きく、介護保険法の施行にあたり大幅な減収が見込まれたとしても、一方的な減給処分は無効である。降格についても、これに減給が伴うものであるから、これまた、一方的な降格処分は無効である。したがって、Y会はXらに、本件処分がないことを前提とした賃金、賞与<中略>を支払う義務がある。