セイシン企業事件(安全配慮義務)

セイシン企業事件(東京高裁平成13年3月29日判決)
「本件工場においては、日常の一般的な安全教育・安全管理の面でも、労働者が本件機械の操作に従事するにあたっての個別的な安全指導・安全管理の面でも、いずれも十分でなく、使用者には、他に経験の豊かな従業員を配置するという面でも安全確保のための配慮を欠いた過失があるとして、使用者の安全配慮義務違反を認めた。」


[事実の概要]
Y会社は、粉流体処理装置の製造等を行う会社であり、Xは、平成8年4月にYに入社した者であるが、Xは、同年11月12日午前5時ころ、Yの利根川工場内で造粒機による造粒加工作業に従事していたところ、造粒機に組み合わされて設置されたバルブに右腕を巻き込まれ、右前腕切断の傷害を負った。本件事故について、Xは、雇用主であるYに対し、雇用契約上の安全配慮義務違反又は民法717条の土地工作物責任を理由に損害賠償を求めた。


[判決の要旨]
Xは平成8年4月に入社後、本社において会社の概要や社会人としての心得などの講習を受け、同月8日及び9日には利根川工場で工場内部の見学と設置されている機械についての説明を受けたこと、その後、同工場では同年9月7日と14日に安全講習を実施したが、Xはいずれのときも前日が夜勤であったことなどから受講しなかったことが認められる。そして、Xが本件造粒機の操作に従事する際には、15分ほどの間に操作方法について教えられただけで、造粒機や本件バルブの構造、作業上及び安全上の注意事項などについての説明、指導は何も受けていないことは前述したとおりである。Yは、作業上の注意事項を網羅した作業標準書を作成して、各作業グループに常備し、その抜粋を各従業員に配布したうえ、本件造粒機には、「回転中に手を入れるな」などと明記した警告シールを貼付していたと主張する。しかし、警告シールが貼付されたのは本件事故後であること、利根川工場では、作業効率を上げるために、従業員らが機械を停止させず、作動中のままその中に手を入れて作業することがよく見られたこと、Xは作業標準書がどこにあるのか知らず、他にも知らない従業員が存在したことが認められるのであって、作業標準書の内容が従業員に周知徹底されていたとは到底いえない。さらにYは、本件バルブには、布製シュータが取り付けられていて、手を入れてブレードまで伸ばせない構造になっていたとも主張するが、その事実が認められないことは前記<略>のとおりである。Yの利根川工場においては、日常の一般的な安全教育、安全管理の面でも、またXが本件造粒機の操作に従事するにあたっての個別的な安全指導、安全管理の面でも、いずれも十分でなかったといわざるを得ない。Xが造粒機の操作に従事するのは本件事故当日が最初であった。そのうえ、機械の構造や作業上及び安全上の注意事項などについての説明、指導は何も受けていなかったものである。したがって、Xの勤務時間の割り当てや一緒に勤務する他の従業員の組み合わせなどに配慮して、Xが適切な指導、監督を受けられる態勢を整える必要があったものといえる。ところが、Yは、Xに午前1時からの深夜勤務を割り当てて、初めての造粒機の操作に一人で従事させた。しかも一緒に深夜勤務に就いたのは、1年前に入社したBだけで、同人はまだ機械の構造などについて十分な知識もなく、しかも他の作業を割り当てられて、別の場所でそれに従事しているといった状態であった。他に経験の豊かな従業員は配置されておらず、そのためXが材料詰まりを解消できず、作業が一向に進まないことに焦りや苛立ちを感じても、適切なアドバイスを受けることができなかったものであるこの点でも、Yには、作業上の安全確保のための配慮を欠いた過失があると認められる。